1: ぶうちゃん
2026-02-14 14:34:17 YTFkOTg0(1)
「カントクとおれっち」のある日のおはなしです。
ある日、いきなり教え子の大学野球部の部員から告白されてしまったカントクと、カントクのおじさんが大好きなでぶちんくんのその後のお話。
ちなみにカントクはおじさんといいながらまだアラサーくらいで、ギリギリ二十代の新人監督さんだったりします。複雑な経緯がある模様w
試合の後で…
試合が終わった。
気が抜けたような空気がベンチを支配する中、ちょっと気落ちした感がある部員たちがひとりふたりと、ぽつぽつとその場を後にしはじめる。
今日はこれで終了だな。
まだグランドに残っている新入部員たちが荒れた砂場の整備をしているが、それもやがて姿を消すだろう。
...もっと見る ベンチの椅子に座ったきりでそれを漫然と眺めるだけの俺も、ため息ひとつ付いてよそに気を向ける。
この場にはまだひとりだけ腰を深く硬いプラスチックの座面にうずめる人影がいた。
このすぐとなりに。
周りのやつらよりもいっそうに意気消沈したさまで、がっくりとうなだれている。
それだけでわかるだろう。
試合の負けっぷりが。
「7対1か……! さんざんだったな? ま、仕方ないだろう。はじまったばかりの対抗戦で、みんなまだ本調子じゃない。おまえも含めてな?」
「…………」
がっくりとうなだれていた丸い肩がピクリとだけ動いて、下を向いたままの丸顔が力ない声を上げてくる。
「……情けないっス! 初戦で大ちょんぼして、チームの足をひとりで引っ張ってしまって。主将なのに、みんなに向ける顔がないっス……!」
「だからって下を向いたまんまじゃしょうがないだろ。ケガしておまえにキャプテンをゆずってる加茂田がどんなを顔するか……」
「ぐっ……! ほんとに情けないっス。悔しいっスよ。おれっち、カントクの前でこんなふがいない姿をさらすとは、もう夜も眠れないっス……」
「ちゃんと寝ろ。おら、泣いているなら顔を拭けよ。これから向こうさんの監督にご挨拶だ。わざわざ遠くから来てもらって、礼も言わずに帰すわけにはいかないだろ?」
おまえも一緒に礼を言うんだと促すにも、まったく覇気のないでぶちんは見るに耐えないくらいのしなびれようだ。
まったく、かわいいヤツだよ。
思わずパンパンと肩に回した左手で左の肩を叩いて、ぐっとこの身に引き寄せてしまうこの俺だった。
周りにまだ部員はいる。
だから必要以上に力がこもっているこの手を引きはがしてだな。
どこかよそを何気ないさまで見つめながら、声をひくめて何やらうそぶく監督だ。
「まあ、初回でおまえがでかいの飛ばして一点取ったまでは良かったんだがな、その後は変に力んでばっかりでいいとこなしだ。出だしがうまく行き過ぎたのか?」
「……好きなひとの前だから、カントクにいいとこ見せようとしてイキりすぎたっスよ。マウンドであいつにも言われて、もうメンタルズタボロッス。幼なじみの目が見れなかった……」
「バッテリーでそいつは致命打だろ。おまえな……! ほんとにかわいいバカだよ」
「ほんとにバカっス。じぶんでもわかってる。あ、ごめん!」
最後のは俺でなくて、チームメイトのピッチャーに向けてだな。
投球自体は悪くなかったが、キャッチャーのリードがイマイチでおまけに送球ミスしてとどめを刺されてた。
だが別段機嫌を悪くしたふうもなくて涼しい顔で立ち去るイケメンくんだ。
「別にいいよ。おまえだけが悪いわけじゃない。でも、おまえが原因の部分もあるんだから、そこはちゃんとしろよ?」
「ああん、わかってる! わかってるって! あんまり言われたら、おれ、泣いちゃうよ」
「おれっちだろ? 泣くよりも他にやることあるんだ。さっさと立て直せ。おつかれさん! 投球良かったぞ」
さっすが。でぶのマブダチがおっさんに告白するって時も真顔で立ち会ってただけのことはある。
おまえは恵まれてるよ。いろんな部分で……!
そうどこか冷めた眼差しで横目に見てしまうが、みずから腰を上げてデブが立ち上がるのを促した。
ごしごしと腕で顔をぬぐっているのを仕方なく見ながら、俺は思わずいらんことを言ってしまう。
「そうだな、反省会するか? 安くてうまいもんおごってやるから、特別にな? 他のヤツらには内緒で……」
声をひそめて言葉を落とすに、すかさずにその場から立ち上がるデブだ。
現金なもんで。
「ゴチになるっス! 立ち直ったっス!」
「バカ! 声を落とせ。他のヤツらに聞こえるだろ。給料日前なんだから、そんなに余裕はないんだよ」
もたもたしてたら向こうのベンチから相手方の監督さんがこっちに近寄ってきちまった。
慌ててグランドに飛び出す新人の監督と、新人のキャプテンだ。
対抗戦は黒星スタート。
これからの行く末を暗示するかのようなはじまりだったが……。
そこからまた時をおいて、ちょっと当惑しながらこのデブとこの顔を突き合わせる俺だ。
「お邪魔しまーす! わあ、カントクってこんなとこに住んでるんスか? 独身の一人住まいってなんか憧れちゃうっス!」
「なんでこんなことになったんだ?」
「やっすい食堂が臨時休業だったっからっスよ! でもあそこじゃみんなにモロバレっスから、これで良かったんスよ♡」
「給料日前でなけりゃ……! おい、カップ麺くらいしかないからな? コンビニにも立ち寄るのがはばかられたから、あるものしかない」
「そこまでひと目を気にする必要あるんスかね? おれっちはなんでもOKスよ。好きな人と一緒なら、何食べてもうまいごちそうっス!」
「はあっ……!」
教え子を家に上げる。
別にそれ自体は大した問題じゃないんだろう。
問題は、この俺とコイツとの関係だ。
バカなことにはなるまいと意識してしまうあたり、バカなんだと自分で自分がイヤになるバカおやじだった。
一抹の不安を感じながら、後ろを振り返ると屈託ないの笑顔満面のばかちんがいる。
ほんとにバカだな。股間が勃ってるだろ。意識してないのか?
そうしてじぶんの下半身を見下ろして、またひとつため息つくこの俺だった。
「はあっ、まったく、ここにはバカしかいないんだな!」
「おじゃましまあーすっス! ようこそおれっちとカントクの愛の巣へっス♡」
「バカ!」
※編集途上。これ以降はまた別に続きを創るかもしれません。なんかご意見ご要望がありましたらコメントどうぞ♡

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